八卦の走圏を始めて、何度か身体のあちこちが痛くなったことがあった。いちばん印象に残っているのは、今年の春の腰痛だ。

 ある日目覚めると、腰痛で寝返りも苦しいほどだった。自宅で原稿を書くのが仕事なので、何とか痛いながらも仕事をしているうちに、一週間くらいで治ってしまった。

 しかし不思議なことに、その間も走圏はできるのだ。走圏をしている間は、全く痛くないのだ。

 それはちょうど、沈め方に気づいて歩き方を変えた頃だった。教室で一時間ほど新しい歩き方をした翌日、腰痛に襲われたのだった。

 腰への負担のかかり方が変わったが原因だと思うが、その後もその歩き方を続けているのに、二度と腰痛に襲われてはいないのが不思議だ。

 その後しばらくして、今度は背中が痛くなった。両方の肩胛骨の間あたりだ。ここは以前槍の練習をして痛め、一か月くらい痛かった記憶がある。八卦掌を始めて何ヶ月後かにまた痛み始め、四、五日で治ったことがあった。その部分がまた痛み始めたのだ。

 この時は、新しい歩き方で上体の放鬆が進み、意図的に背中をゆるめ始めた頃だった。そのせいで、治りきっていなかった部分が引き延ばされ、痛んだのだと思う。これも数日でおさまった。

 走圏を始めると、このように原因不明の痛みが生じ、数日でおさまるという経験をする人が多いようだ。ゆるめて引き延ばし、そこへ気血が流れるので、古傷が動き出すのだろう。そして治っていくようである。

 われわれの八卦掌は一般に知られているものとはかなり異なる要求がたくさん伝えられている。全く聞いたこともない要訣がいくつもあって、ものすごくとまどったものだった。姿勢の要求も根本的に違うので、最初は不自然に感じてしかたがなかったが、いつの間にか慣れてしまった。

 それだけ一般のものとは違うので、身体に及ぼす効果も違ったものになるのだろう。まだたいした年月が経っていないが、それでもこの八卦掌には武術と道家の功法がみごとに融合しているのを感じることができる。少しずつだが、体質が変化し、健康になり、八卦掌が要求する身体に近づいているのを感じる。

 天下無敵にはなれないだろうが、空手二段くらいの実力をとりあえずめざしている。それが目下のところの目的であり、楽しみだ。