お薦めの戦記物



 坂井三郎氏を紹介したので、私が読んだ中でよかった本を紹介したい。

 坂井三郎氏の著作では、やはり「坂井三郎 空戦記録」、もしくは「大空のサムライ」がお勧め。内容はだいたい同じで、後者が硫黄島での死闘に生き残り、本土に生還したところで終わっているのに対し、前者はその後の愛媛三四三空での活躍も収録されている。「大空のサムライ」は英語にも翻訳され、海外でベストセラーを記録した作品。男なら、ぜひどちらかを読んでほしい。

 海軍パイロットが書いたものでは、「空母艦爆隊」「激闘艦爆隊」がお勧め。

 艦爆とは、艦上爆撃機の略。航空母艦に搭載され、爆弾を一発機体下部に懸吊して急降下爆撃を行う航空機。誘導ミサイル等がない第二次大戦当時は、もっとも命中率が高い攻撃方法だった。

 私と同世代でも、零戦のような戦闘機では敵の艦船を沈められないことを知らない人が多い。もちろん戦闘機にも爆弾を積めないことはないが、急降下爆撃をするようには作られていないので、爆撃には不向きなのである。敵の艦船を沈めるには急降下爆撃か、攻撃機による水平爆撃もしくは雷撃(魚雷攻撃)が必要なのだ。

 戦闘機には機関銃しか積んでいないので、船は沈められない。相手の航空機を墜とすのが、戦闘機の役目なのである。

 艦爆、即ち急降下爆撃機がひとたび出撃すると、生還率は50%程度だったそうだ。艦爆は基本的に二人乗り。操縦員と、後席の偵察員だ。数年かけて訓練を積んだペアが、一回の出撃で半分も死んでしまうのである。

 当時は艦上機にレーダーもなく、通信はモールス信号だったから、航法、偵察、通信、後部機銃手として後席にひとり必要だったのである。ちなみに艦上攻撃機(水平爆撃、雷撃を行う)は操縦、通信、偵察の三人乗りだった。雷撃の生還率は、30%以下である。

 戦闘機乗り、艦爆乗り、攻撃機乗り、それぞれのパイロットの手記を読んでみたが、気質が違うのでおもしろい。艦爆乗りの気質は、潔くてキップがよい、という感じ。細かいことを考えず、無数に対空放火を打ち上げてくる敵艦船に向かって、急降下を行うわけであるから、何より度胸が必要だ。

 この二冊の共通点は、艦爆乗りの気質が良く出てカラッと明るいところ。そして、著者が二人とも真珠湾攻撃から終戦まで戦い抜き、生き残ったベテラン中のベテランであることだ。生還率の低い艦爆搭乗員が、幾多の出撃を経て大戦を生き残るというのは並大抵のことではない。お二人とも、本来なら国民的英雄なのである。

 坂井氏の本を読んで戦記物に目覚めた方は、ぜひこの二冊も読んでいただきたい。

 (注)「空母艦爆隊」の本文を一部紹介したサイトがありました。
http://members.jcom.home.ne.jp/ikikko/HTML/PearlHarbor.htm