功夫と風呂


「練習した後は、せっかく練習した効果がなくなるから風呂に入ってはいけない」という言い伝えが、武術界にはある。これは蘇イク彰氏がそういったという話を松田氏から聞いたし、諸賞流の取材でもそう聞いた。

 だから今日私は練習後にも風呂に入っていないのだが、日本と中国(台湾も)の両方で同じことが言われているからには何か根拠があるに違いない、と思う。

 考えるに、これは「気」の問題ではないだろうか。いい練習をすると、気血が活発に動き、練習によって疲労した筋肉に気や神経を復旧して「超回復」を促す。このとき、風呂によって暖めすぎると、せっかくの適度な気血の流れが乱されるのではないだろうか。

 非科学的な説明かもしれないが、武術家が長年の経験で言い伝えてきたことだから、根拠がないとは思えないのである。

 だが、汗をたくさんかいたときには何とかしたいものである。そこで、暖めなければいいだろう、と濡れたタオルで体を拭く程度のことはしている。そして次の朝風呂に入るようにしている。

 朝も練習したいとき、それは一番困るのである。