木刀素振りの大いなる効果

 五日の日曜日の夜、左の手首が痛くなった。こんなところが痛いのは初めてで、原因が思い当たらない。指もなんだかおかしくて、力が入らない。しかたがないので、風呂上がりに正骨水を塗って寝たら、翌朝には治っていた。


 次の日の夜、突然原因に思い当たった。日曜は練習会があり、剣の新しい技を練習したのだった。手首を中心に剣をブン回しながら突撃し、前方を突く技である。これを左右の手どちらも練習したのだった。


 広い体育館で、周囲に気兼ねなく思い切り練習したので、まだ弱い左の手首に痛みが来たのである。


 肘の屈伸に頼らず、腕を伸ばしたまま剣をすばやく回転させるのだが、外見上は手首の力だけで回しているように見える。しかしそれでは敵を切るほど強くは回せない。当然、体幹や脚部の力を利用するわけである。


 武器の練習を始めて、以前木刀を振っていた経験がずいぶん役に立っている。木刀の素振りは、合気系の技を鍛練したくて始めた。


 大東流の実質的な創始者武田惣角は片手斬りの名人だったという。刀を左右の手に持ち替えながら、片手で鋭い小手打ちを見舞うのが得意だった。この動きが、小手返しなどの技に生かされているのだ。


 木刀の重さに逆らわず、腕や肩の筋肉に頼らず、いかに軽くすばやく、丹田の力で木刀を操るか。そんなことをテーマに五、六年も振っただろうか。毎日数百回、多い日は千回振った。


 体さばきをしながら左右交互に小手打ち、他にも何種類も振り方を考えて振っていた。闇雲に振らず、考えながら振っていたのがよかったのだと思う。


 木刀は自分にとってあくまでウォーミングアップで、メインは中国武術の練習だった。気楽に取り組んだのも長続きした原因かもしれない。


 この素振りで身についたことが二つある。


 ひとつは、丹田を使って木刀を振れるようになったこと。とくに、木刀を振り上げ、振り下ろすといった縦の動きに丹田を使えるようになったことは、大きな進歩だったと思う。


 もうひとつは、手が器用になったこと。左右持ち替えながら振ったことで、両手の連携がスムースになった。また、左手もかなり使えるようになった。どれも、武術上達の上で非常に重要なステップだったと思う。


 横山和正師範の講習会や取材でヌンチャクやトンファーの基本をいくつか学び、自分でも実戦しているが、この持ち替え片手打ちの経験がすごく役に立つことがわかった。ヌンチャクを持ち替えたり、左手で扱うことにあまり抵抗がないのだ。また、トンファーを両手で扱うことも、比較的楽にできた。とくにトンファーは腕力ではなく丹田で振ることが重要なので、木刀の経験が生きるのである。


 この時期の木刀の振り方については、拙著『武術体操』(柏書房)に詳しく書いた。素振りは遠藤先生に入門して八卦掌の練習に専念したためにやめてしまったが、これを書いた頃はまだ記憶も新しく、つい詳しく書いてしまったのだ。


 他の武器を扱うに当たっても参考になると思うので、興味をお持ちの方はぜひお読みいただきたい。このページの右側のアマゾンの広告をクリックすると、『武術体操』のページへ飛べる。出版されてから三年たったので、中古も実に安く売られている。今のうちに手に入れていただきたい。


 最近は木刀こそ使わないものの、中国の剣などでその代わりになっている。剣もいい武器である。勁の出し方がはっきりわかるし、ある程度の重さがあるので、体も鍛練できる。刃はついていないとはいえ、体に当たるとケガをするので、緊張感をもって練習することもできる。


 武器は手の延長。拳術をある程度練習したら、やはり武器の練習は非常に有益だと思う。