走圏のゴールと扎根

 今年は花粉症がひどくて、三月、四月は体調が悪かった。おまけにここ二、三年は暖かくなってくる四月半ば頃から、なぜか体力が落ちる。この両方が重なって、仕事も練習も絶不調だった。五月も半ばになってやっと調子がよくなってきて、ホッとしている。


 個人的な練習は、まず武器でウォーミングアップすることから始まる。剣の基本を軽くやることもあるし、トンファーやヌンチャクを振ることもある。木刀や棒のこともある。やっているうちに真剣な練習になることもあるし、あくまでウォーミングアップのことも多い。


 自分の場合、練習とは即ち練功、体を作ることだと思っているので、大変さが先に立って最初から取り組む気になれない。そこで、武器で気持ちと体をほぐし、盛り上げていくわけである。


 練功の中心は走圏と三円律。


 走圏の場合、今のところ三通りのやり方がある。熊、龍の基本的な走圏。ショウ泥歩。そして滑らかな走圏。


 先日、遠藤先生から走圏について興味深い説明があった。それは、「荘子」に出てくる大鵬という鳥を例にとったものだった。


 要するに、細かいことを気にせず、「意」とか「気概」を大切にした歩き方をする練習法もある、ということだった。基本の走圏は練功として大切だが、細かいことを気にして歩いているだけでは、本来の走圏が何をしようとしているのか理解できない。本来の自在な境地を体現した歩き方を練習することも大切である、というわけである。


 基本から一歩一歩進むことも大切だが、ゴールがどんなものかを知って練習することも大切である。でないと、どこへ向かっているのかを見失ってしまう恐れもあるからだ。こうした自在の境地で走圏をすることによって、自分の弱点も見えてくる。そうすれば、そうした点を改善すべく、基本の走圏や趟泥歩を練っていけばよいわけである。


 この練習法を習ってからは、走圏も少し気が楽になった。「今日は結論から練習しよう」と、楽なやり方もできるからだ。体調の悪い日が続いたので、ありがたかった。ただ、こっちが多くなるのも困るのだが。


 今週の練習では、「扎根(さつこん)」について詳しく解説があった。根を下ろすという意味である。根を下ろすとはつまり勁を通すということでもあり、そのためにどう足を運用するべきか、実に詳しく解説があったのだ。


 無駄に足を動かさず、固定すべきは固定する。これは何年も注意されてきたが、私を含め皆なかなかできるようにならなかった。業を煮やした遠藤先生は、誰でもわかるように時間を割いて詳しい説明をしたのであった。


 あまりのわかりやすさに感動した。太極拳形意拳を数十年練習した人も、説明を聞きながら「すごい」を連発していた。この説明のすごさは何年も練った人でないとわからないかも知れない。


 扎根ができている人とそうでない人の違いは、なかなかわかりにくい。しかし、注意を受ければ一目瞭然である。そして、こうした足の運用がうまくできていないと、膝に負担がかかり、長く練習しているうちに痛めてしまうこともありうるという。先生は長年にわたり低い姿勢で陳式の練習を激しく行ったため、膝をひどく損傷してしまい、一時は歩くこともままならなかったという。そうした経験から、足をどう運用するべきかを、深く研究されたようである。


 先生は走圏の際、実際に足が地面にめり込んでいるような感覚があるという。私は残念ながらそこまで行ったことがない。少しでも近づきたいものである。