腿の纏絲と収胯

 孫詩先生の八卦掌では、鋏馬トウという站トウを練習する。内股で立つ、詠春拳剛柔流の三戦に似た立ち方である。八卦掌では、葉底蔵花など多くの技でこの姿勢が出てくる。


 これまで馬歩や三体式などの站トウは練習してきたが、この内股で行う鋏馬トウは経験がなく、なかなか慣れない。今週の教室ではこの立ち方について遠藤先生より詳しい解説があり、大きな気づきがあった。


 走圏や鋏馬トウにおいて、腿の纏絲勁について何度か説明を受けており、この日も聞くことができた。そして先生が「わかりましたか」とみんなに念を押したが、頭ではわかっていても納得できていなかった私は「わかりません」と応えてしまった。先生はあきれたようにさらに詳しく解説してくださった。


「『八卦掌では膝を内に入れる』という人がいますが、そうではないのです。外見だけ真似をすればそうなりますが、纏絲勁を使えば膝を内に入れるのではないということがわかります」そうして、腿の纏絲勁の使い方について詳しく解説があった。


 その時やっとわかったのだが、私は腿の纏絲勁を正しく理解していなかったのだ。私がやっていたのは、膝を内に入れるのと大してレベルの変わらないやり方だった。


 鋏馬トウは収胯の練習にも向いているそうなのだが、この日はこの収胯についても収穫があった。鋏馬トウでいかに収胯を行うか、自らの股関節に触らせて確かめさせながら実演してくれたのだが、このとき、今まで気がつかなかった先生の股関節の動きを感じた。文字通り股関節を収めるような動きだった。


 これは自分はまったくやっていなかったな、と思って真似してみると、足全体、そして足の裏の感覚がまったく違う。力強いというよりも、ぴったりはまったというか、安定して、むしろ楽に立てる感じである。


 収胯については何度も教えを受けて、けっこうできているつもりではいたのだが、甘かった。鋏馬トウがしっくり来ないということは、収胯も完全ではなかったのだった。


 例によってこのときの感覚は自分ではなかなか再現できないのだが、感触は残っているので、少しずつ試みている。それにしても、何年も習ってなかなか身につかないことを、遠藤先生はよく一人で身につけたな、と感心するばかりである。そういえば先生は沖縄小林流空手の横山和正先生のDVDを見て、「横山先生は収胯ができているんですよね」と感心していた。横山先生もまた、天才なのだろう。


 収胯だけでもなかなかものにならないが、上体の放鬆、肩に頼らず指先まで勁を通すこと、足腰に加えて上体の強化など、課題はたくさんある。


 今日でまたひとつ年を取ってしまったが、焦らず楽しんでいきたいと思う。