肝腎の締め 

 昨日エドワード鍼灸院に行ったら、脈診のあと、いきなり頭にブスブスと鍼を刺された。脳天と両こめかみである。それまで頭に刺したことがなかったのでビックリした。これまではお腹が中心で、足首と腕にも打つことがあるくらいだったのだ。

 理由を聞くと、心に熱があるといわれた。別に恋愛状態なのでハートが熱いというわけではなく、心包経だったかが熱を持っているというのだ。

「頭がボーッとしている状態なので判断力が落ちてるよ。今日は重大な決断はしないでね」とエドワード。えーっ、これ以上バカになってどうすんの、と不安になる。原因は、今年の夏の暑さで体内の熱をうまく発散できないこと、もうひとつはパソコンで仕事をするために頭に気が上がったのではないか、ということだった。

 エドワードは僕の頭の所に座って、何かやっていた。どうも手をかざして、邪気の発散を促進しているようだった。こうして手をかざして気を呼び込んだり、邪気の発散を促したりする方法は日本の鍼灸に昔から伝わっていたものだそうである。そのように、英国人から教えていただきました。

 さて、武術の話。考えてみると、半年に一度くらい比較的大きな転機がある。

 先週、比較的大きな気づきがあった。それは腰腹の使い方、とでもいうべきものだ。きっかけは、空手家の横山和正氏のビデオを見たこと。この春に行った横山和正氏とのトークライブが映像に収めてあるのだが、このなかで氏がナイファンチを演武している部分を見て、電撃的にひらめいたのだった。

 横山氏は「肝腎の締め」という言葉を使う。氏は、肋骨と骨盤の間の骨のない部分、この全面を「肝」、背面を「腎」と呼んでいる。この肝と腎を締めることによって力を出すのだという。それは腰を左右に回転させることとは違うようだった。

 肝腎の締め。八卦掌でも走圏で似たようなことを注意されるので、何となくわかったような気でいた。しかし、横山氏の動きを見ていて、突然「わかった!」という気になったのだ。

 何がどうわかったのか。ひと言で言えば、「腰腹の使い方」かな。肝腎とは、要するに腰腹のことだと思う。遠藤先生は走圏の際にこの部分を充実させるように、繰り返し指導してくれた。その意味が、やっとわかったのだった。

 充実させるからその部分を基準とすることができ、基準ができればそこを土台に発することができる。「走圏は蓄勁の練習をしている」とずっと前に書いた気がするが、やっとそれが体感できたように思う。

 発し方がわかれば、どう蓄すればいいかもわかるので、これまでのようにただ外面的な注意だけでなく、発するための姿勢という感覚的な面から走圏の姿勢を考えることができるようになった。この違いは大きいな。

 走圏は形が大切だが、どのように集中、充実させるかも重要だ。自分の場合、形だけからこれを悟ることはむずかしかったと思う。

 腰腹の使い方は基本的なことがわかっただけで、これを実際にどのように種々の技に応用していくかはこれからの課題。これがむずかしそうだ。しかし急ぐ旅でもなし、じっくり取り組んで研究していこうと思う。