人体の三つの弱点 



 精誠八卦会による李明貴先生の講習会が始まった。今日は講習会の第1日目。初心者向けの講習会ということで、走圏だけかと思ったらそうでもなかった。

 まず馬貴八卦の基本的な概念について。養生と技撃をともに走圏によって実現するということ、養生の四つの要素、四つのステップといった解説があった。

 そして走圏で強化すべき人体の三つの弱点……脚、腰、頸についての話。馬貴八卦掌では、この三カ所を走圏および単換掌などで強化し、養生および技撃の向上を図る。熊形、龍形の走圏によって、全身の筋を「拉順(らつじゅん)」するのだという。拉順とは、引き伸ばして順調にする、という意味だろうか。

 これによって、内臓も「調理」されるのだという。調理とは調養の意味。内臓を整え、強くするといった意味のようだ。

 以下、李先生の講義を要約していこう。

 脚、腰、頸の三カ所を強くすることで、一生の健康を維持できるのだそうだ。そしてそれは走圏で実現できるのである。

 この日は熊形の次に龍形の走圏も練習した。龍形走圏は足元が定まらず、肩が上がってしまうが、それは頼るべきところが弱く、他に頼ってしまうからだという。

 本来、人体でもっとも強いのは脚だが、人は後天的に肩に頼るようになる。そのため、肩に力を入れてカバーしがちである。そこで、走圏によって脚に力を戻すのである。

 単換掌を練る目的も、走圏と同じである。それは三つの弱点の克服であり、単換掌を行うとその弱点がすぐに現れる。弱いところには力が入らず、肩に力が入るのである。練習にはまずこうした思想(意識)を変える必要があり、それから体を変えていく。

 単換掌は走圏と同じく、中正を保たなければならない。歩法、身法、手法のすべてが中正を保つ。八卦掌は簡単そうに見えるが、その実奥深くむずかしいものである。それは上下左右すべてが総合して動き、平衡をとらなければならないからである。一挙一動すべて偏らず、中正と平衡を保たなければならない。

 単、双換掌は中正が重要である。中正に保つことにより気血が円滑に流れ、養生を促進する。中正でなければ力は完全ではなく、中正であることが力になる。

 単換掌は八卦掌すべての内容を含む。走圏が養生と技撃の両方を含むのと同様に、扣擺歩、種々の掌法を含む。

 探掌、蓋掌も単換掌より派生したものであり、探掌、蓋掌を通して単換掌の理解を深めることができる。

 熊形撞掌は、脚、腰、背、頸の力を使って打つ。弱点である三つの部分を強くし、その力で打つ。しかし、弱点である三カ所は、撞掌のような発力練習で強くするのではない。発力練習は、自分の体がどれだけ強くなったかを知るために行う。弱点の克服は、先ほども述べたように走圏で行うのである。

 今回の講習会は熊、龍の走圏、単換掌、双換掌を中心に練習するようである。地味でつらいが、走圏、単換掌という八卦掌の基盤になる部分をしっかり教えてもらえるのは得がたい機会だと思う。