ノー・ディレクション・ホーム 



 先日、ボブ・ディランの伝記映画「ノー・ディレクション・ホーム」を見た。

 想像以上にいい映画だった。

 ディランはずっと気になる存在でありながら、「入門」できないでいた。きっかけがつかめなかったのだ。今回この映画のことを知り、ぜひ見たいと思っていた。監督はマーティン・スコセッシ

 三時間半もの大作。ディランへのインタビューと、貴重な記録フィルムをふんだんに使い、60年代のアメリカの状況を示すニュースフィルム、アメリカン・ルーツ・ミュージックであるフォーク、カントリー、ブルースなどのミュージシャンの演奏シーン、そしてディラン自身の写真や映像から作られている映画だ。

 アメリカがどう変わってきたか。ウディ・ガスリーやピート・シ−ガー、ジョーン・バエズといった歌手たちは、どんな歌を歌ったどんな人物だったのか。生々しい映像によってそうしたアメリカ現代史や音楽史に触れることができるのも、この映画の大きな魅力だ。50〜60年代アメリカのフォークソング・シーンを知ることができただけでも、いい経験になった。

 日々の労働から生まれてきたようなあれらの素朴で力強い歌や歌い手たちは、どこへ行ってしまったのだろうか。ロシアの民謡を思わせる、実に土臭く、誠実な歌がかつてのアメリカにはあったのだ。今、それを少しでも引き継いでいるのは、ブルース・スプリングスティーンだろうか。

 ディランがあれほどの毒と切れ味、そしてパワーを持っているとは、不覚にも知らなかった。「激しい雨が降る」が、ソ連との核戦争におびえるアメリカの社会状況を踏まえたものだということも知らなかった。

 20歳で華々しくデビューしたディランは、本当に神がかって見えた。カミソリのような切れ味の詩が機関銃のように飛び出す。力強く、人を惹きつけてやまないヴォーカル、呪術師のようなギター。音楽の神が憑依しているかのようだ。実際映画の中で当時のディランを知るミュージシャンやアーティストは、「彼はアメリカの集合意識に触れた」と語っていたし、ディラン自身も「ある世界に行って歌を持ってくることができた」といった意味のことを語っている。

 まだまだいろいろ感じたことはあるのだが、とりあえず今日はここまでにしよう。この映画は、東京では今月29日まで渋谷のイメージフォーラムでレイトショーとして上映されている。その他の地域については、以下のサイトを参照のこと。

「ノー・ディレクション・ホーム」ホームページ
http://www.imageforum.co.jp/dylan/

この映画についての日記は、ここにまとめられている。
みなさん絶賛しておられるようです。

http://b.hatena.ne.jp/entry/http://www.imageforum.co.jp/dylan/