走圏はというと、体重移動を見直したおかげでいろいろなことに気がついた。

 今まで変なところが筋肉痛になっていたのは、膝の動きがスムースでなかったためだった。膝を柔らかく使えず、そのためにあちこち無駄な力が入っていた。

 見直しを始めてからも特に右足だけ妙に疲れる。おかしいと思って、自分の足の動きに意識を集中して走圏をしてみた。すると、左足はスムースに動くのに、右はそうではないのだ。じっと観察していると、股関節に原因があることがわかった。

 20歳頃に、右の股関節あたりを強打したことがあったのだ。飛び後ろ蹴りを練習していたのだが、履いていた靴が安物で、踏み切った瞬間すべって地面に叩きつけられ、右足の付け根を打ったのである。

 右足を左と同じようにリラックスさせて歩くと、右足に体重が移っていく過程で、全く力が入らない瞬間があることを発見。そこへ来ると、「カクッ」とよろけてしまうのである。それを防ぐため、無意識に右足のいろいろなところに力が入り、筋肉痛を引き起こし、また歩き方がぎこちなくなっていたのである。

 おもしろいのは、そのことに気づいたとたんに意識しなくとも右足もかなりスムースになったことだ。問題点がはっきりしたことで、股関節に問題があるなりに以前より合理的な歩き方を体の方で覚えたようである。

 おかげで走圏が楽になり、変な筋肉痛もなくなった。単換掌などの技にもいい影響を及ぼしているようで、個々の技法が何をしようとしているのか、以前より理解できるようになった。

 こうして足に神経を使わなくてよくなったので、今は気血を養うことを主眼に走圏をおこなっている。すると、丹田を基準に歩くという感覚が、少し見えてきた。中国の師の歩き方というのは、丹田が基準になっているのではないか、という気がしてきた。

 まだちらりと見えただけなので、この感覚をすぐに定着させることができるかどうかわからないが、自分にとって走圏をおこなう上での重要な手がかりになりそうな気がするのである。しかし、これをやっていると腹が出るかもな。