山椒の佃煮

 わが家の狭い庭に、山椒の木がある。10年前に引っ越してきたときに植えたものだ。

 母方の祖父母は滋賀県大津に先祖代々の家を持っている。現在は祖母が一人で住んでいるのだが、その家の庭には巨大な山椒の木があった。直径20cmを超える大物だ。祖父はその木を非常に大切にしていて、毎春実を収穫し、祖母が佃煮にしていた。

 最近では少なくなったらしいが、関西ではこの季節八百屋やスーパーの青果売り場に山椒の実が並ぶ。わたしの母は毎年それで佃煮を作っていた。山椒の佃煮はご飯にとてもよく合い、お茶漬けなどには最適である。

 私はその佃煮が忘れられず、わが家の庭に山椒を植えた。小さな鉢植えが育ち、三、四年で実をつけるようになった。今日、その収穫をした。

 山椒の実は収穫時期が難しい。早すぎると中が空洞で、遅いと中が硬くなる。ちょうどいい時期を見て実を集める。しかし枝には薔薇より鋭くて長い棘が無数に生えており、収穫作業は大変である。半袖だと前腕が傷だらけになる。今年も苺パックに一つ半くらい集めることができた。

 収穫した実は枝葉を取り除き、水洗いしたらまず灰汁抜きをする。そのまま煮たのでは刺激が強すぎて食べられないので、一度ゆでこぼす。母は二度ゆでこぼすという。そして醤油と日本酒で煮詰めるのである。

 京都の佃煮店でも山椒の佃煮は売られている。青さを残した上品な仕上げである。しかし、我が祖母から伝わる煮方は、真っ黒になるほど醤油を使った、佃煮らしいものである。どう考えてもこの方がうまいのだが。

 山陽地方では早春からイカナゴの釘煮が出回る。この春も母が送ってくれ、娘たちが喜んで食べた。私にとって佃煮といえばこのふたつ。海の味と山の味だ。