中田英寿のキック 



 四年に一度しかサッカーを見ない人間なので、中田英寿の名前と顔は知っていても、そのプレイをじっくり見たことはなかった。ワールドカップを見ても、個々の選手はじっくり写るわけではないので、動きの特徴はよくわからない。

 昨夜、引退騒ぎで中田の映像を見ることができた。練習で軽く動いているだけだったが、そのせいか動きの特徴がよく表れていて、勉強になった。

 まず感じたのは、静止した状態からの動き出しが非常に滑らかで無理がないこと。体幹部の軸がしっかりし、そのままスッと前へ出て行く。形意拳八極拳の動作を思わせる動きだった。

 その時の中田は、体幹部が非常にしっかりして見える。芯が太くて、どっしり安定している。そのしっかりした体幹部が、滑るようになめらかに出て行くのだ。

 そして、ボールをキックするのを見て、これは一種の体当たりだな、と思った。突きとは、腕を伸ばした体当たりである、という表現がある。中田のキックは、足で行う体当たりみたいだった。

 サッカーに詳しくないので、こんな蹴り方があるのかと新鮮だった。自分がボールを蹴る場合、軸足を定め、蹴り足を引いて、足を振り回して蹴ろうとするだろう。中田のキックは、ボールに向かって進んでいく体の勢いの延長上に小さくキックを乗せる感じで、実にコンパクトに、しかも走る足の動きとうまく調和させて蹴っていた。

 軸足を踏ん張らず、体幹部が前進しながら蹴っているのである。しかも体をひねらないから、胴体はほとんど前を向いたまま、無駄な動きをしない。ロングシュートは多少違うだろうが、中距離ならこの蹴り方ですんでしまうのだろう。

 前へ出ながら蹴る動作は、武術にもありそうだ。足の使い方という点で、非常に勉強になる中田の動きだった。