活人剣 

 大晦日の格闘技をちょっとだけ見た。締め切りが控えていたので年末年始の区別なく仕事に追われていたが、ホイスと所の試合を見た。

 ホイスは寝技を評価されるし、確かに他の総合系の選手と比べても段違いにうまいと思う。しかし、私が感心したのは「入り方」だった。

 思えば初めてホイスの試合に触れたのは、アメリカで行われた大道塾市原海樹選手との試合。ホイスは市原の蹴りに合わせてタックルを決め、寝技で勝った。初対面の選手に対して、あの一瞬の見切りは大したものだと思った。

 今回も、その抜群の見切りを何度も見せてくれた。間合いとタイミングを読み切り、打撃の隙間をかいくぐって確実にタックルを決める。ホイスは発勁を知らないからタックルですんでいるが、接触したところから肘や肩で当て身を行うことを知っていたら、相手は入られた瞬間にKOだ。

 逆に所は打撃系の選手なのに間合いとタイミングに無頓着に見えた。ホイスが入ってくる瞬間にしか打撃を決めるチャンスはないのに、胴回し回転蹴りを出しているようではわかってないとしかいいようがない。

 ホイスは離れたら上段や下段の横蹴りで牽制し、近づいたらうまく相手の技を引き出し、技が伸びきったところへ入り込む。打撃系の選手なら、そこを駆け引きで逆にタックルさせ、カウンターを決めなければならないのだが、それができたものはいないのだ。

 日本の剣術はこうした間合いの攻防に命をかけるわけだから、研究が非常に進んでいる。間合いを詰めていき、「技を出さなければやられる」という所まで相手を追いつめ、先に技を出させて裏を取る。柳生新陰流ではこうした戦法を活人剣と呼んでいるようだ。

 グレイシー柔術は打撃系との戦いの経験が豊富なので、こうした駆け引き、戦法に非常に優れている。伝統武術を学ぶ者にとっても、見るべき点は多いと思う。