「Ultimate Experience MP3」というとんでもないCDを手に入れたことは以前に書いた。ビートルズの公式盤全て、及びこれまで出回った主要なブートほとんどを音源にし、録音された日付順に整理した、全2000曲以上を収録した八枚組のCD-ROMである。

 これはすごい。確かに究極の体験だ。まだ一枚目の半分ほどを聞いただけだが、もうお腹いっぱいである。助けて、という感じだ。
 同じ曲が、レコーディング時の別テイクで何パターンも収録されている。スタートでつまづいたり、コーラスでジョンが歌詞を間違えたり、コードを間違えたり……。そして咳払いや、曲間のおしゃべり、ベースやギターのフレーズ練習など、いろんな音が入っている。まるでスタジオにいるみたいだ。

 録音の途中を聞いて、感じたことがある。それはスタジオ録音のむずかしさだ。

 私は大学生の頃、スタジオの夜間受付のバイトをしていた。それで深夜の誰もいない録音スタジオに入ったことがある。レコーディングルームは窓のない密閉された広い部屋。天井も高い。周囲を全て吸音材で囲まれているから、音の響きが一切なくて、奇妙な感じである。閉鎖されて、夜か昼かもわからない。

 スタジオは非常に寂しい空間なのである。あんなところでノリのいい演奏をしろといわれたって、そうできるものじゃないな、と思った。ビートルズを始めミュージシャンたちは、あんな無機質な環境でノリのいい音楽を生み出すのだ。
 レコーディングの合間の音を聞いていると、その落差が感じられて興味深い。

 録音の合間にも、ポールはベースを弾き倒している。じっとしていない男だ。なんだかハミングしながらベースの早弾き。ジョージも気になるフレーズを練習している。ジョンもノリを確かめるようにギターでリズムを切っている。

 そうかと思うと、DJとの会話が混じるBBCのライブ、金切り声の中でのライブなど。初期の同じ曲を色々な形で何度も聞かされる。

 楽しいのだが、濃い。それですぐお腹いっぱいになってしまうのである。

 じっくり聞かないともったいないので、少しずつ味わって聞いていきたいと思います。