デトロイト・スタイル


しばらくお寺で武術を教えていたのだが、転勤などで少しずつ生徒が減り、昨春、一人だけ残っていた生徒も転勤で来れなくなって、私の教室も休眠していた。


しかし、六月半ばに30代なかばの男性が、ブログを見て訪ねてきて、教えてほしいという。


ここ五年ほどはほとんど更新していないこのブログだが、まだ見てくれる人がいるんですね。


彼の場合は、大東流をやっていることから四股の踏み方を知りたくて検索し、辿り着いたのだそうだ。


小学生の頃に「武術」を読んでいたというから、こちらも年を取ったんですね。


その彼に教えていて、トーマス・ハーンズの話になった。


S君という彼は、はやりまだ力みがとれない。


なので、ふとトーマス・ハーンズのボクシングスタイルを思い出して、その話をしたのだった。


S君は、ヒットマン・ハーンズを知らなかった。そこで、私のiPodtouchで、youtubeの映像を探して見せた。


ハーンズは左手を下げ、フットワークを使いながら、裏拳みたいなジャブを放ち、いきなり強烈な右クロスでKOする。


肩をゆるめて打つことを、ハーンズのパンチを例に教えようと思ったのである。


改めて真似してみて、気づくことがあった。


ハーンズのジャブは、通背拳の摔掌。右クロスは、八卦掌の蓋掌に共通するなあ、と感じたのだ。


拳をほとんど握らず、低い位置から手の甲で打つジャブは、肩が緩んでいるのでスピードがあって、よく伸びる。通背拳の横摔にそっくりである。


右クロスは、普通のストレートと違って右肩あたりから、叩きつけるように打つ。昔、スローで見て研究し、真似したのだが、威力が出しやすいのである。


いわゆるテレフォンパンチで、中心から真っ直ぐ打つきれいなストレートとは違うのだが、ハーンズはジャブやボディで崩しておいて、いきなりこのパンチを放ってKOするのだ。


蓋掌も肩のあたりから打つのだが、相手の死角になるように打って、テレフォンパンチにならないようにする口伝がある。力が入れやすくて、威力がある打法なのである。


探掌や穿掌で崩しておいて、蓋掌できめる。そういう使い方をするのである。


頭を打つと相手の意識を失わせる威力があるので、「迷魂掌」というカッコいい別名もついているのだった。


通備拳の纏額手も、ほとんど同じ技。こちらはものすごく伸びやかに、瓦稜拳で行う点が異なります。


KO伝説 トーマス・ハーンズvsジェームス・シュラー