内家拳の外功

 今月は仕事が忙しくて、一度しか教室に行けなかった。その間に新しい練功法の指導もあったようで、悔しい限り。


 われわれの八卦掌は、孫詩先生のものを練習している。孫詩先生は練功を重んじていて、走圏やタントウ、武当山龍門派の気功といった内功の他に、「内家拳の外功」もそうとうやりこんでおられるようだ(孫先生は龍門派の正式伝人なので、そちらの方も興味があるところである)。


 孫先生によると、単なる腕立て、拳立てでは力むあまり眼圧が上がり、目によくないそうである。そのあたりも考慮された外功が、内家拳の外功というわけである。内功と外功を数十年にわたって練った孫先生の功夫はすさまじく、いろいろなエピソ−ドがあるようだ。それに関してはいずれ機会があったら書いてみよう。


 腕立て伏せに関しては、以前、伏臥功について書いた。昇級審査の課目にもなっている、腕立ての姿勢で静止する練功である。これは腕の角度や力の入れ方、足や腰の姿勢に細かい口伝があって、実に苦しい練功になっている。


 私の場合は、「上半身の力は使わない」といわれて練習してきたので、上半身に関してはほとんどなんの鍛錬もしてこなかった。だからこの伏臥功もきついことこの上ないし、なかなか継続して練習できていない。考えてみれば、使わないから力をつけなくていいというわけではないのだが。


 今回教えていただいたのは、静功ではなく動功だった。腕立て伏せをしながら、三種類の手型を交代していく。もちろん腕や姿勢、動かし方その他に要求がある。


 これを単なる腕立て伏せととるか、それとももっと深い意味を理解して練習するかで、効果はかなり違ってくると思う。


 佐川先生は腕立て伏せを重視して、何種類かのやり方で鍛錬されていたようだ。私はなぜ佐川先生が腕立て伏せのような単純な筋トレを重視するのかわからなかったが、要するに地面に対して発勁の練習をしているのではないかと考えるようになって、納得できた気がした。


 八卦掌の達人であった馬貴は、直立した姿勢から前方へ倒れ、両腕で地面に対して腕打を行い、その反動で元のように立ち上がったという。腕打とは手首を曲げた外側の固い部分で打つ技だ。


 本当にそんな芸当ができたのかどうかにわかに信じがたいが、そこまでやらなくても、腕立て伏せの要領で両手で地面に対して発勁と同じ力の使い方をすれば、全身を同時に鍛えることができるのである。

 肩の力を抜くこと、足腰の力で手技を打ち出すこと。これらは武術を学ぶ上で非常に重要なのだが、上半身の鍛錬と両立させることがなかなかむずかしい。学ぶ方も教える側も、頭を使わなくてはいい結果が得られない。自分が長い間学んできて、そして最近指導するようになって、そのことを痛感している。


 孫詩先生の出演したテレビ番組。その功夫の一端を見ることができる。