5.1ch版"LOVE"の試聴報告



 昨秋、「ビートルズの新作」という触れ込みで発売された"LOVE"。

 賛否両論というか、否定派と「まあいいんじゃない?」いう評価が多く、絶賛という意見はあまりなかったように思う。

 かくいう私も5.1chバージョンが収録されているDVDの付録がついたアメリカ版を手に入れた。

 自宅では普通の2chステレオしか聞けなかったのだが、1月13日土曜日、ビートルズ好きな知人たちと5.1chバージョンを聞くチャンスに恵まれた。茅場町にあるデノンの視聴室で聞けることになったのだ。

 デノンの視聴室は本来平日のみの営業。しかし、今回は特別に聞かせてくれるという。

 茅場町にあるデノン本社には、立派な視聴室があった。分厚い防音扉の向こうに、20畳くらいありそうな視聴室。アンプやスピーカーがずらりとセットされており、正面にはスクリーンが。挨拶もそこそこにDVDを渡す。

 "LOVE"DVDバージョンにはいくつかのフォーマットで同じ内容が記録されており、その中でももっともデータ量が多いという DTSで再生してもらうことに。そしてデノンの装置なら7.1ch再生もできるそうだが、この日はオリジナル通り5.1chで再生することになった。

 一時間あまりの時間、われわれはビートルズを堪能することができた。5.1chは確かにすごい。

 印象に残っているのは、まず冒頭の"Because"。この曲には虫の声がかぶせられているのだが、5.1chではそれが左右の後方に位置し、音楽とははっきり分離して聞こえてくる。これによって、虫の音を背景に三人の歌声が聞こえてくるのだ。

 こうした5.1chならではの分離効果は、"I Want To Hold Your Hand"で大きな効果をあげていた。ハリウッドボウルの観客の声が左右および後方から聞こえ、四人の演奏は前方からステレオで聞こえる。その結果、観客席の真ん中でライブを聴いているような感覚になるのだ。これには感激した。

 5.1chの効果をもっとも感じたのは、"A Day In The Life"の最後の部分。狂ったオーケストラがキーをどんどん上げていくところだ。

 この部分ではオーケストラの音がキーを上げながら自分を渦のように取り巻き、しかもその輪がどんどん小さくなって自分を包囲していくような感覚に襲われた。一瞬、確かにゾッとしてしまったのだ。

 このとき、確かにビートルズはサージェント・ペパーズの録音当時、これをやりたかったのだろうな、と思わせてくれた。

 "LOVE"にはいろいろな意見があるが、私としては、昔の材料を使ったにしてはよいできだと思っている。サーカスのサントラとして聞くなら、上出来ではないだろうか。

 今後ビートルズの音源をDVD化、5.1ch化するにあたっての、実験としても成功したのだと思う。5.1chバージョンに限っていえば、「ビートルズの新作」という触れ込みも許せるかな、と思えるほどだ。

 今回は5.1chの可能性を知るとともに、限界を知った気もした。5.1chはよい環境で聞けば確かにすごいが、その環境を手に入れることが極めて難しい。ある程度以上の機材を、完璧に調整してセッティングし、音量を上げて聞かなければ十分な効果を得られないのだ。

 今回ともに視聴した方たちも5.1chを所有し、すでに"LOVE"を聞いておられたが、「家で聞いたのと全然違う」と口を揃えて語っていた。かなりの環境でないと5.1chの真髄を味わうことはできないようなのだ。

 重低音による騒音の問題もあるし、5.1chには可能性は感じるものの、広く普及するかどうかは未知数だと思った。

 というわけで、少々遅くなってしまったが、5.1ch版"LOVE"の試聴報告でした。デノンさんには感謝です。