ビートルズのLP 



 部屋の掃除をしていたら、LPが出てきた。神戸の実家を取り壊したときに、こちらへ送ったまま埋もれていたのだった。

 とりあえず出てきたのはビートルズばかり。驚いたことに、自分の持っていたレコードを忘れている。「ビートルズNo.5」「ヘイジュード」「ミート・ザ・ビートルズ」「ビートルズ・ストーリー」・・・こんなレコード持ってたっけ?

 覚えていたのは、オールディーズというベスト盤。これはたぶん最初に手に入れたビートルズのレコードだ。1966年に書かれた福田一郎の解説が時代を感じさせる。「リボルバー」の話が延々と続き、次のアルバムはどうなるんだろう、と書かれている。サージェント・ペパーの出る前の話である。

 これらのレコードをかけてみた。まず、「ヘイジュード」。なんだか収録曲数が少ないLPだ。B面なんか4曲しか収録されていない。このアルバムや「ビートルズNo.5」「ミート・ザ・ビートルズ」などは、編集盤であって、イギリスで発売されたものとは内容が異なり、その後のCD時代には姿を消したのだ。このほかにも「プリーズ・プリーズ・ミー」「ウィズ・ザ・ビートルズ」「ビートルズ・フォーセール」「ハード・デイズ・ナイト」「ヘルプ」などのアルバムも出てきたから、効率の悪い集め方をしていたことがわかる。これも変な編集盤を出していた東芝が悪いのだ。貧しい中学生を混乱させるなんて。

 オールディーズのジャケット裏を見ていて、ポールが着物を着ているのを思い出した。紋付きだ。「壽」と書いてあるのだろうか。メンバーの真ん中には木の箱がテーブル代わりに置いてあり、その上には香炉が載っている。中国の、玉でできた香炉ではないだろうか。着物は覚えているが、香炉は気づかなかったなあ。

 CDは匂いなどしないが、アナログのレコードには独特の匂いがある。今日、その事を思い出した。ターンテーブルにレコードをセットし、ほこりをクリーナーで拭き取り、プレーヤーのスイッチを押すとアームが動いてレコードに針を落とす。

 リクライニング・チェアに身を沈めてオットマンに足を置き、じっくり耳を傾けてみた。20歳で実家を離れてからは聞いてないわけだから、なんと27年ぶりである。

 デジタルになって進歩したはずだが、アナログの音も別に悪くない。CDに負けていると思えない。

 違いと言えば、ベースの音は今のCDの方がよく聞こえるような気がする。しかし、アナログの方が低音から高音まで自然にまとまっているような気がする。ダイナミックレンジの広いCDのほうが迫力はあるが、アナログの方が上品で優しい音のように思える。

 結婚後しばらくして買ったサンスイのシステムコンポは、レコードプレイヤー対応だった。当時すでにCDが主流になっていて、「レコードなんて聴きますか」と店員に言われたことを思い出す。80年代の終わり頃、20年近く前の話だ。オーディオの名門だったサンスイはその後イギリスの会社に身売りし、さらに香港の会社に売られた。いまはどうなっているのだろうか。

 そのコンポもついにCDプレーヤーが壊れ、お払い箱寸前である。しかし、まだダブルカセットの片側が生きているし、レコードプレーヤーもつなげる、貴重な存在である。レコードプレーヤーはトリオ製。学生時代、卒業して故郷へ帰る先輩がくれたものだ。これもなかなかいい製品のようで、製造後25年くらい経過したはずだが健在である。

 アナログレコードを聴くのは手間がかかるが、それだけの価値があるものだということを再認識した。たんなる郷愁ではなく、確かに音が違う。音がいい、悪いではなく、違うのだ。

 幸いにもレコードも機材もあるので、これからは時々レコードを聴いてみよう。レコードはCDに負けない素晴らしいものだと思う。が、復活はしないだろうなあ。