クラプトン*1ストラト*2ブラッキー*3が競売に出され、約一億円で落札された。

 56年当時と同じように作られた新品のギターは、今でも15〜20万円出せば手に入る。マスタービルダーもの*4でも50〜60万円だ。

 56年頃のギターは確かにオールドギターとして高い値段で取り引きされているが、それでも200万位が限度だろう。オールドギターの場合、新品に近く、オリジナルであるほど値段が高く、使用されて傷があり、しかも部品が交換されて年代がごっちゃになったものは価格が著しく下がる。ブラッキーと同じ状態のオールドギターなら、楽器屋に売ると50万位にしかならないかもしれない。

 クラプトンが「愛しのレイラ」で使ったサンバーストのストラト「ブラウニー」が四年前にオークションに出たとき、4000万だか6000万だかの値段がついた。
 果たしてこれらの値段は高いのか、安いのか。

 ストラディバリのバイオリンは、状態のいいものは4億、5億といった値段がつく。それに比べたら、一億円は安いともいえる。ギターの神様が「ほかに替えられない。最高のギター」とまでいうのだから。

 もちろんそれはクラプトンにとっての価値である。クラプトンが好む極端なVシェイプのネックは、他人には弾きにくいものかもしれない。極端すぎて、シグネチャーモデルでは適当にしか再現しなかった、というほどのものなのだ。だがロックも誕生以来50年近くたち、一つの音楽ジャンルとして確立したわけだから、これくらいの値段がつく楽器があってもおかしくないと思う。

 今回、クラプトンは貴重なギターのコレクションをほとんど放出した。それは四年前のオークションでも資金を投入した、薬物・アルコール中毒患者の更生施設「クロスロード・センター」運営のために使われるのだ。
 今回の売り上げはなんと八億円。しかし、前回手放せなかった大事なギター、ブラッキーを手放したこと、それがエライと思う。

*1:Eric Clapton、ロックミュージシャン。「ギターの神様」などと呼ばれる。

*2:アメリカのフェンダー社製エレクトリック・ギター、Stratocaster。

*3:Blackie、56年頃のストラト八本からクラプトン自身が気に入ったパーツを選び、組み上げたギター。クラプトン自身が「身体の一部」というほど愛用し、多くの名曲を生みだした。近年は消耗が激しく使用していなかった。ボディが黒いことからクラプトンはブラッキーの愛称で呼んでいた。写真はここ→http://www.stratcollector.com/scn/ec1.html

*4:アメリカ・フェンダー社には「マスタービルダー」の称号を持った凄腕の職人がいて、彼らが選りすぐりの材料で手作りしたギターが通常の製品とは別に売られている